愛の告白

えんえんと長く降りつづく梅雨のようにホテル暮らしが続いている。来る日も来る日も、朝起きたら仕事に出かけ、終わるとホテルに戻ってくる。こうした生活の中で唯一と言ってもいい楽しみは食事になるはずなんだけど、会社から外食禁止令が発令されているた…

今の不幸は、後の幸せかもしれない。

薄暮が迫り、赤色に空が染まり始めたころ、中学校の校門で野球部の部員がユニフォームから制服に着替えている光景に出くわした。丸刈り頭の学生たちが談笑しながらユニフォームを脱ぎ、白シャツに着直している。 その青春の一ページともいえる光景を目にした…

作った料理のうまさよ。たとえ自炊のへたっぴ料理でも。

最近一週間ほど、朝・昼・夕のご飯をすべて弁当(あるいはおにぎりやパン)という食生活を送っている。概して根っからのお弁当好きなわけではなく、どちらかというと渋々である。では、どうして三食弁当というトリッキーな生活を送っているかというと出張の…

服探しは、宝探しと似ている。

服の買い物というのは、いくつになっても胸が高なってしまう。もちろん、すべからくすべての買い物中にそうなるわけではない。たとえばアウトレットモールに訪れたときや、ショッピングモールで大セールを開催しているときなど、リーズナブルよりさらにお求…

食という、日常の感動

ふだんの生活で感動する瞬間に立ち会うことはそうあることではないと思う。仕事をしているときに胸に熱い思いがこみ上げてくる瞬間はほとんどないし、サッカー選手がゴールを決めたときのように、あるいはサヨナラホームランを打った時のように興奮して思わ…

音楽が必要だ、この世界には。【20200920 スペアザ@日比谷野外音楽堂】

SPECIAL OTHERSのライブに行ってきた。本当なら今年の春先と初夏にライブがあり、そのチケットも確保していたんだけど、ご存じのようにコロナの影響で全てのライブが延期となっていた。そんな折、ついに、待ちに待ったライブの開催である。 会場は日比谷の野…

人生は、ボーナスステージだ。

誰かと話している場で「人生はボーナスステージだ」をぼそっと口走ると「ほう。その心は?」と興味深い眼差しで尋ねられることがある。 遠い昔に「人生とはなんだろう?」と天を仰ぎながら考えたことがあって(おそらく、多くの人が一度は考えたことのある問…

半沢ロスからのアルルカンと道化師

自分で言うのもなんですが、僕はわりとミーハーな気質を持ち、世間で流行っているものがあれば、手元に引き寄せて味わってみたくなるタイプです。ワンピースは、全巻ぬかりなく集めているし、最近では、Nizi Project(虹プロ)も、東京編から韓国編まで全話…

ドンドンドン‼︎

友人とその息子のジョージくんと郊外の小さなショッピングセンターで遊んでいるときのことだった。ジョージくんがゲームコーナーでポケモンをプレイしているときに、下腹部のあたりに尿意を感じ、友人に「トイレに行ってくる」と告げ、その場を離れた。 すっ…

えんぴつだって怒ってる。

イライラしているときにえんぴつを手に取るとザッザッと殴り書きのような感じで乱暴に扱ってしまうときがある。で、ボキッと折れてしまうのだ。 そうなると、気が短い僕は「クソ鉛筆め!この不良品が!」と条件反射的に怒ってしまう。でも、もしかしたらえん…

雨は街の洗浄です。

雨というやつは、 非常にやっかいで油断できない。 うっかり気を抜くと 買ったばかりの革靴は酒でも飲んだかのように ふにゃふにゃになり、 肩から腕にかけては滴の大群がはびこっている。 ショルダーバッグの中にあるノートは 使いものにならない。 だから…

さよならを言えるのは、それだけで幸せなことなのかもしれない。

約三年間ほど、ボクシングジムに通っていたことがありました。遠い昔の出来事ではなく、わりに最近のお話です。通い始めた理由は、当時の職場の先輩が通っていた影響もありますが、シンプルに「強くなりたい」(と口にするのも憚れる)思いがあり、今がその…

夏の独唱。

九月のおわりかけに 木立からセミの鳴く声が聞こえた。 いつもは合唱で聞こえてくる鳴き声も、 このときは独唱だった。 そのひとりきりのセミは、 強く高く大きくおもいきり鳴いていた。 ひとりだけの世界を謳歌しているように。 あるいは、世界に自分しかい…

手には年輪がある。

荒れてる手、皮が厚い手、指先だけが厚い手、爪に土が詰まってる手、傷がある手、ペンだこがある手…。 満員電車に乗っていると、つり革をつかむ手をたくさん目撃しますが、その手から、年齢や人生が垣間見えることがあります。荒れてる人は、飲食系や美容関…

この世界にも勇者はいそうです。

ふと何かのきっかけで(どうしてそうしたのか思い出せない)、「勇者」という言葉を広辞苑で引いてみたら、「勇気のある人。勇士。」と書いてあった。そうなのか、と思いもよらない文書に僕は静かに驚いてしまった。 ドラゴンクエストに夢中になった世代とし…

時間にも支出がある。

家計簿のようにお金の支出管理を行うものがあるけれど、同じような概念で時間の支出管理もしないとまずい、と思いはじめている。 時間に支出も収入もへったくれもないじゃないかと言われそうですが、たとえばスマホゲームに熱中した時間や、YouTubeをだらだ…

改札から逃げるように走り去る男

目の前を歩いていた男が自動改札機で引っかかった。ICカードの残高が不足していたのだと思う。まあ、僕もときどきそういうエラーをしでかすし、どちらかといえば、よく見かける光景だ。おそらく、彼はもう一度、改札の手前に戻って、ピッと打ち直すはずだ。…

雨が降った。傘をさすか迷った。

雨が降ってきた。傘をさすか、さすまいか迷うような雨である。そういう雨ってありますよね。判断にぐずついてしまうような。僕もこの二者択一問題について考えた。考えてる間も、空から落ちてくる雨によって僕の体は少しずつ濡れていく。冷たい風とともに冷…

給料日は、パチンコで負けてもいい日。

馴染みの定食屋に行った。六十を越えたおばちゃんが一人で切り盛りしている店だ。「たかちゃん」と常連客から親しみを込めて呼ばれているおばちゃんと僕はかれこれ5年以上の付き合いで親のようになんでも言い合える仲である。 カウンター六席、テーブル席が…

大人への第一歩

制服を着た小学生男児がポケットに両手を突っ込んで歩いていた。出勤中の大人たちと同じ歩行スピードで彼は登校していた。子どものように元気よく駆けずり回る姿はどこにもない。子どもたちが有している、無邪気な笑顔は影を潜め、クールな表情をしたまま、…

お祭りに行くと、小学生の僕がいた。

去年の秋、生まれ育った街の祭りに行った。最後に行ったのは僕が中学生か高校生くらいの頃で、かれこれもう二十年も昔のことになる。その祭りは二日間の開催で数十万人の人が訪れる、にぎやかで規模の大きなお祭りだ。実家に住んでいた頃、僕は街をあげての…

芸人の世界は、チャレンジする人を否定しない。

僕は芸人の世界に詳しいわけではないし、お笑いの養成所に通った経験もありません。テレビやネットを通して得た情報の印象で語りますが、芸人の世界には、年齢の制限というものがないような気がします。歳がいくつだろうと、門戸は開かれ、関所のように「ち…

マネキンの姿勢について

デパートでウィンドウショッピングをしていると、衣服よりも妙に気になる存在がいる。マネキンだ。あの人(と言っていいのかわからないけど)たちは、あまりまともなポーズを取ろうとしない。 両側から迫り来る壁を止めるように両腕を真横に伸ばしているマネ…

公園と女子高生のトロンボーン

夏の終わりの日曜日の昼下がり。公園の隅の木陰の下で、女子高生がトロンボーンを吹いていた。お世辞にも上手いとは思えなかったけど、失敗したフレーズを何度も繰り返したり、難しそうなフレーズを吹けるまで練習したり、強い熱量をひしひしと感じとること…

「裕福なウチの犬に生まれたかったなあ」

定食屋で昼ごはんを食べていた。隣に3人組の若い女性陣が座っていて、恋の話で盛り上がっていた。盗み聞きするつもりはなかったけれど、真横のテーブル席にいるので、たとえ耳栓で耳を塞いでも聞こえてきてしまう。3人のうち、甲高い声の女性が、会話の中…

駅員「お触りください」

夏の暑い日。僕は山手線のホームで電車を待っていた。次発の電車を待つ列の後ろに並んでいる。前方には、休日のラフな格好をしたおっさんや、肌をさらけ出した若い女性がいる。そんなターミナル駅特有の喧騒の中、スマホをいじりながら電車を待っていると駅…

完璧な「横顔」は、存在するかもしれない。

今、都内のスターバックスでこの文章を書いている。資格の勉強をしている女性が僕の前方にいる。彼女の参考書から、資格について学んでいるということが推測できるのだ。何の資格か、具体的にはわからない。本のタイトルまではっきりと読み取ることはできな…

「私さ、生まれ変わったら桜の木になりたい」

あれは二、三年前の春の季節のことだった。初めて訪れた土地で感じのいい定食屋に入り、昼食をとっていた。客席の距離は近い。都心のカフェのように瀟洒な音楽もかかっていない。静かで、こじんまりとしたお店だ。 一人で心おだやかに地元の名物料理を食して…

人という景色にも、惹かれてしまう。

深夜、都内を走るタクシーの中で、窓の外の夜景をぼんやり眺めていると、なにやら喧嘩をしている二人組を発見。寝ぼけまなこながら、火花が飛びかっている二人の光景を追いかけはじめる。タクシーで横切るその数秒間の出来事は、意識的というより、ほぼ無意…

人類みな同級生の店。

これはコロナが世界に蔓延する前のお話です。 毎日のように通う定食屋がありました。そのお店は、10坪くらいの小さなお店で、10人も入れば満席です。料理は美味しいけれど、「ぜひ食べてほしい」と周りに喧伝するほどのものではない。食べログの点数も3.0を…