給料日は、パチンコで負けてもいい日。

馴染みの定食屋に行った。六十を越えたおばちゃんが一人で切り盛りしている店だ。「たかちゃん」と常連客から親しみを込めて呼ばれているおばちゃんと僕はかれこれ5年以上の付き合いで親のようになんでも言い合える仲である。

カウンター六席、テーブル席が一つだけの、十坪ほどの小さなお店だ。僕は空いていたカウンター席に座るなり、生姜焼き定食を注文した。たかちゃんは「あいよ」と言って狭いキッチンにふくよかな体を縮こませながら料理をはじめた。

その日は、たかちゃんの給料日だった。たかちゃんは雇われ店長みたいなものでオーナーが別にいる。

「やけに嬉しそうだね」と僕は言った。
「給料日だって知ってるでしょ」
「知ってる」
「今日はパチンコで負けてもいい日だから」
「どういうこと?」
「普段は生活かかってるからね。でも今日は月に一度、パチンコを楽しめる日なの」

頬を緩ませながら嬉しそうにたかちゃんは言った。
「あいよ」と出された生姜焼きは、いつもより柔らかく美味しかった。「おいしいよ」と僕がこぼしたら、「大したことないよそんなもん」とはにかみながら返事をする。「早く食べて帰ってよね。パチンコ行くんだから」とたかちゃんが急かしてきたので、僕は生姜焼きをゆっくり噛んで時間をかけて食し、食べ終わった後も椅子に深く腰掛けてくつろいだ。一時間経とうとする頃にようやく席を立つと、「冗談じゃないよ、まったく」とたかちゃんは笑った。