作った料理のうまさよ。たとえ自炊のへたっぴ料理でも。

最近一週間ほど、朝・昼・夕のご飯をすべて弁当(あるいはおにぎりやパン)という食生活を送っている。概して根っからのお弁当好きなわけではなく、どちらかというと渋々である。では、どうして三食弁当というトリッキーな生活を送っているかというと出張の…

食という、日常の感動

ふだんの生活で感動する瞬間に立ち会うことはそうあることではないと思う。仕事をしているときに胸に熱い思いがこみ上げてくる瞬間はほとんどないし、サッカー選手がゴールを決めたときのように、あるいはサヨナラホームランを打った時のように興奮して思わ…

給料日は、パチンコで負けてもいい日。

馴染みの定食屋に行った。六十を越えたおばちゃんが一人で切り盛りしている店だ。「たかちゃん」と常連客から親しみを込めて呼ばれているおばちゃんと僕はかれこれ5年以上の付き合いで親のようになんでも言い合える仲である。 カウンター六席、テーブル席が…

「裕福なウチの犬に生まれたかったなあ」

定食屋で昼ごはんを食べていた。隣に3人組の若い女性陣が座っていて、恋の話で盛り上がっていた。盗み聞きするつもりはなかったけれど、真横のテーブル席にいるので、たとえ耳栓で耳を塞いでも聞こえてきてしまう。3人のうち、甲高い声の女性が、会話の中…

「私さ、生まれ変わったら桜の木になりたい」

あれは二、三年前の春の季節のことだった。初めて訪れた土地で感じのいい定食屋に入り、昼食をとっていた。客席の距離は近い。都心のカフェのように瀟洒な音楽もかかっていない。静かで、こじんまりとしたお店だ。 一人で心おだやかに地元の名物料理を食して…

人類みな同級生の店。

これはコロナが世界に蔓延する前のお話です。 毎日のように通う定食屋がありました。そのお店は、10坪くらいの小さなお店で、10人も入れば満席です。料理は美味しいけれど、「ぜひ食べてほしい」と周りに喧伝するほどのものではない。食べログの点数も3.0を…

好きな食べ物はなんですか。

「好きな食べ物は何ですか?」と聞かれることがある。おそらく会話の沈黙を埋めるための質問で大した意味はない。まあ時候のあいさつのようなものである。でも、僕は自分でも馬鹿だなあと思いつつ、好きな食べ物について腕を組んで真剣に考えこんでしまう。…

夏の箱根の山。【金時山-明神ヶ岳-明星ヶ岳】

平日の昼間にしょっちゅう訪れる定食屋がある。ビル群の割拠する路地裏にひっそりと佇むお店で、雨の日も風の日も嵐の日も休むことなく年配のおばちゃんが一人でせっせと切り盛りしている。通いはじめて半月ほど経った頃、店の一角に「山と高原地図 奥多摩」…

富士山とつるつる温泉が待っている。【御岳山〜大岳山〜日の出山】

◯ 8:00 御嶽駅 2018年7月8日「ホリデー快速おくたま」に乗って御嶽駅に到着。土日になると出現するこの中央線の快速列車は、新宿から乗り換えなしで奥多摩まで運んでくれるありがたい列車だ。奥多摩方面に向かうときは必ずといっていいほど世話になる。それ…

見晴らしのいい山。【筑波山】

○ 7:31 渋谷駅 2018年6月17日東京の空模様はどんよりとした曇り空で、もくもくと漂っている雲の群れに太陽が覗く隙間は一分もなかった。僕が今日目指す山は展望の良さで知られる筑波山だ。願わくは山頂では雲が吹き飛び、美しい光景を目にすることができる…

また行きたくなる山。【伊豆ヶ岳〜子ノ権現】

○ 7:04 正丸駅 2018年6月2日(土)時計の針が早朝の5時をまわったばかりの山手線は、腕を組んで首をうとうと傾けながら頭を垂れてる人がたくさんいた。ついさっきまでクラブミュージックが鳴り響く薄暗い空間で、はじけていたとみられる若い男女のグルー…

おそるおそる歩いた山。【大楠山】

○ 前日譚行ってみたかった街がある。僕はいまコンクリートジャングルの一角に住んでいるのですが、いずれは自然豊かな街に住みたいなあという気持ちが心の隅にずっとあって、三浦半島の逗子という街に前から興味があった。鎌倉までは行ったことはあるけど、…

魂が共鳴してしまった喫茶店。【トンボロ】

お店の根っこにある魂とじぶんの根っこにある魂が共鳴するような、とても居心地のいい喫茶店に出会ってしまった。神楽坂の路地裏にある「トンボロ」という喫茶店です。 戸を開けた瞬間から「トンボロ」が僕のお気に入り喫茶店リストに入るまで時間はいらなか…

おじさんにナンパされたときの話。

電車で知らないおじさんにナンパされたことがある。 僕よりだいぶ年配のNさんと一緒に帰っていたときのことだ。Nさんは会社の上司でもなく、学校の先輩でもない。お昼時によく出かける定食屋の常連のひとりでそこで知り合った間柄である。ふだんは寡黙だが、…

なんども歩きたくなる山。【陣馬山〜高尾山】

○ 8:10 陣馬高原下バス停2018年5月11日土曜日。晴天。僕は山間を走る早朝のバスに揺られていた。一週間の仕事を終えた金曜日の夜、山にまみれたい気持ちがうねるように高まって、あしたは山に行こうと決めたのだ。「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるか…

体に火がついた650円の湖南料理。【紅龍】

昼下がりに空っぽになったお腹を満たすため、神楽坂の路地を歩いていると「1時よりランチメニュー全品★650円★」という看板を見つけた。何も装飾されていないテキストだけのシンプルな看板である。が、そのワンフレーズは金欠の僕の胸にぐさりと突き刺さった…

コーヒーは砂時計のように消えていく。【カフェ・ラパン】

JRの御徒町駅から歩いてほどない場所に『カフェ・ラパン』という喫茶店がある。ぼくはこのお店の店主が淹れてくれるコーヒーとタマゴトーストのファンで折をみてはいそいそと訪れます。 コーヒーは決まって「ラパン・ブレンド」を頼みます。ラパン・ブレンド…