コーヒーは砂時計のように消えていく。【カフェ・ラパン】

JRの御徒町駅から歩いてほどない場所に『カフェ・ラパン』という喫茶店がある。ぼくはこのお店の店主が淹れてくれるコーヒーとタマゴトーストのファンで折をみてはいそいそと訪れます。

コーヒーは決まって「ラパン・ブレンド」を頼みます。ラパン・ブレンドは深煎りのブラジルをベースに、苦みとコクと甘みを重視したブレンドで、ミルクを入れると一層まろやかになる。ミルクを入れる前の苦味も、入れた後の甘味もどちらの味わいも好きです。一杯の中に二度のおいしいがある。タマゴトーストはタマゴとキュウリとレタスが厚切りのトーストのあいだからハミ出るほどサンドされていて、口を大きくひろげないと咥えられない分厚さがある。味も申し分なく、カリッとサクッとこんがり焼けたトーストの舌触りも、具材との絡みも絶妙の塩梅でなんど食べても感激してしまう。コーヒーとタマゴトーストを注文して1100円。これでなかなか幸せな気持ちになる。

しかし、そんなささやかな幸せなひとときは──幸せなひとときだからこそ──あっという間に過ぎていきます。本のページをめくるとともに、分厚いトーストを頬張るとともに、コーヒーもするすると消えていく。砂時計の時間のように静かに過ぎ去っていく。別の時間性の世界にトリップしたような浮世離れした時間も、気がつくと大皿に置かれたタマゴトーストは跡形もなく消え、カップの底は尽きている。すべての砂が落ちきったあとの切なさが胸に染み渡ってくる。

ラパン・ブレンドの豆を購入して持ち帰り、『カフェ・ラパン』と同じひとときを自分の部屋でもつくれないものかと、せっせと豆を挽いてコーヒーを淹れてみるんですが、しかし、なんど淹れてもあの時間は現れない。それは決して再現することのできない時間なのです。

f:id:amayadorido:20180507214308j:plain