雨が降った。傘をさすか迷った。

雨が降ってきた。傘をさすか、さすまいか迷うような雨である。そういう雨ってありますよね。判断にぐずついてしまうような。僕もこの二者択一問題について考えた。考えてる間も、空から落ちてくる雨によって僕の体は少しずつ濡れていく。冷たい風とともに冷たい雨粒が僕の頬に当たる。気にならないといえば、気にならない程度の雨だし、気になるといえば、気になる雨だ。

どうして僕は傘をさしたくないんだろうと考えた。片方の手を塞ぎたくないのかもしれない。できる限り、両手は自由でいたい。そういう気持ちが僕にはあるのだろう。ひょっとしたら僕の「自由でいたい」という欲求と直結しているのかもしれない。だから、自由の象徴でもある僕の手はいつだってオープンでいたいのだ。

雨粒の勢いが少しだけ強くなる。でも、僕はまだ傘をささない。周囲は、傘を広げる人が増えてきた。傘をささない人は圧倒的に少数派になった。ぽつぽつと降っていた雨は、いつの間にか、絶え間なく、ザーザーと降る強い雨に変わっていた。

これは考えるまでもなく、傘をさすべき事案だ。意地を張る必要なんて一切ない。さあ、傘をさそう。そう決めた僕は傘を広げようとした。が、できなかった。なぜなら傘を持っていなかったからだ。いったいいつから僕は傘を持っていると錯覚していたのだろうか。冷たい、強い雨が、僕の体にぶち当たってきた。