完璧な「横顔」は、存在するかもしれない。

今、都内のスターバックスでこの文章を書いている。資格の勉強をしている女性が僕の前方にいる。彼女の参考書から、資格について学んでいるということが推測できるのだ。何の資格か、具体的にはわからない。本のタイトルまではっきりと読み取ることはできない。

彼女は、ポニーテールの黒髪で、タートルネックの黒いセーターを羽織り、深緑のワイドパンツを履いている。

そしてなにより、とても美しい横顔を持つ女性だ。見惚れてはいけないと思いながら、つい目がいってしまう。美しい横顔の女性を思い浮かべていただきたい。その人が今、僕の目の前に座っている。

右手にペンを携え、参考書に何かを書き込んでいる。彼女は今、資格のことで頭がいっぱいだろう。僕は今、彼女のことでいっぱいだ。まさか彼女も、すぐ近くに自分のことを考えている野郎がいるとは思うまい。僕は気づかれないように無表情で、パソコンにカタカタとこの文章を打っている。

彼女の横顔はまるで夏の沖縄のビーチのようだ。ぼーっと眺めているだけで、なんだか心がとろけてゆく。完璧な顔というものは存在しないと思うけど、完璧な横顔というものは存在するのかもしれない。ふとそう思った。

彼女がスマホを取り出した。誰かにメッセージを送っているのだろうか。そのとき、僕のスマホに通知が来た。差出人が不明だ。ドキンドキンと胸の鼓動が早くなっていく。もしかしたら彼女からのメールかもしれない、と、ありえもしない妄想を僕はした。

メールを開いた。ただの迷惑メールだった。

目の前にいる彼女は、どこか嬉しそうな表情をしてスマホを見ていた。彼女を喜ばす男は、なんて幸せ者だろう。