残業の日々となつぞらとパン屋さん。

 えんえんと降りやまない梅雨の雨のように残業の日々がつづいている。来る日も来る日も、終電や終電間際まで働き、週末も、休日という日が遠い星の出来事のように僕は出社して働いていた。とにかくいろいろな仕事が同時進行ですべからくエンジンフルスロットルで動いていた。エンジン全開でも、しし座流星群のような猛烈なスピードで仕事が片付いていけばいいんだけど、どの仕事も三歩進んでは二歩下がるようなスピード感で、一向に終わりの出口は見えてこなかった。

 夜の0時に近い電車に乗ると、たくさんの人が同じ車両に乗り合わせてくる。中には飲み帰りという人もいるだろうけれど、僕と同じように仕事に追われ、終電に駆け込んでいる人も多く見受けられた。疲労の顔を滲ませた人が駅に到着するたび乗ってくる。そういう人たちを見ると、ああ、同志よ、とある種の仲間のような存在に思えてくるから不思議だ。年齢も職業も性別もバラバラだけど親近感を覚えてしまう。車窓に映る僕の顔も、隣のおじさんの顔も、どことなく似ている。目はうつむきになり、背筋は丸まり、手はつり革に預けている。朝の通勤電車のように背中をピンと張った人は、あまりいない。まあ、酒を飲みすぎたのか、ふらついている人は時々見かけるけれど。

 残業や休日出勤がつづく中で、幸せな時間はほとんどない。ウチに帰っても、風呂に入って、ご飯を食べて、あとは寝るだけ。好きな読書や好きな映画や好きなテレビを見る時間はほとんどないし、見ようとする気力も湧かない。

 でも、朝はちょっと違って「なつぞら」をわりと楽しみに見ている。北海道の自然の大地の風景は雄大で引き込まれる。それからオープニングのアニメーションと、それに合わせて流れるスピッツの音楽も素晴らしくて心地いい。広瀬すずの笑顔もたまらなくいい。こんな女性が近くにいたら、絶対に恋してしまうだろう。お話も引き込まれるし、今の僕の数少ない楽しみの一つになっている。それから、朝の通勤の途中で通りかかるパン屋さんも楽しみの一つである。買うわけじゃなく、店のそばを通りかかるだけなんだけど、できたてのパンの香りが店外まで届いて僕の鼻の中に吸い込まれ、一瞬、夢の世界のような気分にトリップする。それがたまらなく幸せな感情をもたらしてくれるのだ。パンの香りって侮れない。「なつぞら」と「パン屋」さん。この存在は僕の仕事まみれの日々を少しだけ救ってくれている。

 とりあえず10連休。昨日までである程度の仕事は片付けた。が、まだ少し残っている。歯磨き粉のチューブの最後を絞るようにぜんぶ終わらせるために、この連休中も、いくらか働かなければならない。仕事、仕事、仕事の日々だ。こう毎日のように追われていて、やはりしんどいときもあるけれど、つまらなくないのが唯一の救いかもしれない。