知らない道。

考えごとをしながら歩いていたら
知らない道に迷い込んでしまった。
近所のはずなのに見たことのない場所だ。
はて、いったいどこで道を間違えたのだろう。

さて、グーグルマップを立ち上げるかどうか。
グーグルマップさんに尋ねれば、
こうして道に迷っても現在地はわかるし、
うちに帰ることは、いともたやすくできるだろう。

でも、グーグルマップさんに尋ねなかったら。
蛸の足のように分岐する道を、
好奇心の赴くままに歩き進めることができる。
それはなかなかおもしろい散歩ではあるまいか。
せっかく、意図せず、未知の世界に迷い込んだのだから、
この状況を楽しむのもいいかもしれない。

そうして、ぼくはポケットからスマホを取り出さず、
歩いたことのない道を歩みはじめた。

しかし、好奇心を刺激される一方で
奥へ奥へと進むたびに、
もう家に帰れないんじゃないかと
漠然とした不安が襲ってくる。

図らずも世界の境界を越えてしまって、
異なる世界に迷い込んでしまったのではないか。
そんな空想めいたことも現実のように感じてしまう。

しばらく歩いていると見慣れた景色に再会した。
よかった。ぼくは戻ってこれたようだ。
未知の世界というものは、存外、近所にあるらしい。