散歩の方位磁針は心である。

目的のない散歩というものは心が方位磁針になる。目的地があるならば、ゴールに向かって弾丸のように行進するのだが、行くあてのない散策は感情のパラメーターが上昇した方位が進路だ。心のアンテナを受信した道が進行方向になるのである。

ぼくはあたかもコロンブスになった気分で自分にとっての新大陸を発見すべく、心の機微に従いながら、左足と右足を交互に繰り出していた。自分だけの地図を手作業(というよりも足作業)で作り上げていくような高揚感もあった。テクノロジーが発展し、地球上の地図が詳細に描き出されたとしても、自分にとっての世界はまだまだ空白だらけなのである。

知らない駅に降り、知らない土地を歩き、知らない店と出会う。なんの予定もなく、ぶらぶらとする休日は、それはそれでなかなか楽しい冒険の日なのである。