おいらはカエル。

ゲコゲコ。おいらはアズマヒキガエル。
名前はない。ニンゲンたちはカエルって呼ぶ。
おお、またおいらの魅力に釣られてニンゲンがやってきた。

この小さな立方体の空間に連れてこられてから二年ほど経っている。
多摩川のほとりの茂みで遊んでいたら、
ニンゲンに捕まえられてここに運ばれた。

それからおいらの日常は一変した。
草むら生活から箱庭生活だ。
どちらの生活がいいかって? 難しい質問だな。
今は毎日決まっておいらの好物のダンゴムシを届けてくれるし、
ヘビやサギに襲われることもない。
いささか窮屈すぎることを除けば、わりに気に入ってる。ゲコ。

こら、少年。ガラスを叩くな。うるさいだろ。
「ぜんぜん動かないね」って当たり前だろ。
おいらたちは夜行性なんだ。
太陽が西に傾く時間は寝ている時間なの。
キミタチニンゲンとは生活時間が真逆なんだ。
だからできるだけ静かにしておくれ。
寝顔を見られるのは恥ずかしいけど、もう慣れた。
好きなだけ見ていいよ。
それに仕事だと思えば仕方ない。
これでメシを食ってるわけだからな。

「パパやママと離れ離れになっちゃったのかな?」
おい、少年。それは禁句だ。会いたくなるだろ。
父ちゃん、母ちゃん、心配しているだろうなあ。
おいらはなんとか元気でやってるよ。

今はニンゲンがおいらたちの世話をしてくれている。
ごはんを用意してくれるし、友達も連れてきてくれた。
悪くない生活だ。ちょっと窮屈だけどな。
平穏の代償だ。それは理解したよ。

「カエルさん、動いた〜!」
ふっ。おいらが二、三歩動いただけで、この大歓声よ。
気分は悪くないぜ。でもそろそろ眠いんだ少年。寝かせてくれ。

「あ、動いた〜!」
ん? おいらは歩いてない…あ、友よ!
抜け駆けはダメだって話あったはずだぜ。
お前が先に仕掛けたんだろって、そうだったな。すまん。
だが、少年の目線を独り占めさせるわけにはいかないっ!

「見てみて! もう一匹も動いたよ〜!!」
「でも、ぴょんぴょん跳ねないんだね」

少年、それはダンゴムシを積まないとできない頼みだぜ。

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