静かに蚊が刺してきた。

痒い。足のあちこちがムズムズする。無意識のうちに手が両足に伸びてボリボリ掻いている。

そのとき僕は、突き刺さる陽射しに耐えながら、緑が多い公園のベンチで友人の息子が遊具でキャッキャと遊んでいる姿を「平和だなあ」と眺めていた。友人の子どもを筆頭に他の子どもたちも、とてもエネルギッシュに走り回っている。僕なんてベンチで座っているだけでも陽射しにやられて疲労しているのに、彼(彼女)らのスタミナはサッカーの長友も驚くくらい無尽蔵だ。息子とかけっこしている友人のパパから、「交代」とハアハア息を吐きながら声をかけられたが断固たる決意で拒否をした。

そしてこのとき、足に異変を感じる。ひどく痒いのだ。やられた。ぼーっと梅雨明けの日曜日の昼下がりを過ごしているときに蚊に刺されていたようだ。素足むき出しの両足を見ると小さな古墳のようなぷっくりとした蚊に刺された跡が数箇所できている。その膨らんでいる様を発見し、反射的にボリボリと掻いてしまうと、さらに痒さが増倍し、僕の足が非常事態宣言を出しはじめた。

それにしても蚊のしたたかさは見事だ。おそらく何匹もの蚊が一斉に僕のうまそうな(?)白い足を見て攻撃を仕掛けてきたのだろうが、僕はまったく気がつかなかった。気配すら感じなかった。彼らは忍者のように、あるいはアサシンのように静かに、誰にも見つからず、瞬く間に僕の高タンパクな血液を吸っていたようだ。

思えば、蚊にとってみたら、公園という場所は絶好の狩場なのかもしれませんね。ブーンという蚊の存在を知らしめる羽音は子どもたちの声でかき消されるし、ハーフパンツを履いた素足剥き出しのおっさんがたくさんやってくる。そういう人間を見かるたびに「ごちそうがまたきたぞ」とほくそ笑んでいるのかもしれない。

しかし、公園にいる子どもたちは痒いそぶりを一向に見せない。ひっきりなしに駆け回っているから、どんなに腕の立つ蚊でも、刺すことがむずかしい相手なのかもしれません。そういう意味では、ぼけーっと突っ立ってたり、ベンチに座ってる大人のほうが与しやすい相手なのだろう。蚊の世界では「人間の子どもを刺せて一人前」という格言があるとかないとか。