この世界で僕だけが取り残されているように思えた。

雲の隙間から一羽の鳥が飛んでいくのが見えた。大空を優雅に舞っているではなく、一点の目的地に向かって力の限り全速力で飛んでいるように見えた。僕の人生であのくらい真剣にどこかに向かって駆け抜けたことは一度だってあっただろうか。脇目も振らずに走り抜けたくなる目的地は、物理的にも、精神的にも、これまでの人生でただの一度もなかったと思う。薄れゆく記憶を草木をかき分けるように青春時代や少年時代まで遡ってみても、一目散に駆け抜けた記憶は見つからない。

あの鳥が懸命に向かう先にあるものは何なのだろうか。もう一度、僕は彼の方向に目を向けた。しかし、すでに跡形もなく、あの鳥は消えていた。僕の体を背中から強い風が通り抜けた。彼は弾丸のように目的地に向かってまっすぐ突き進んでいた。この世界で僕だけが取り残されているように思えた。