ゴミ屋敷の車。

鉄板の上でじゅうじゅう焼かれているお好み焼きの気持ちが今ならわかるくらい、外が暑い。息を吸うと喉が焼けてしまうのではないかと心配になるほど、灼熱の太陽の光が僕の全身をめがけて降り注いでくる。

国道の横断歩道の信号が青になって渡ろうとしたら、赤信号で待っていた先頭の車が痺れを切らしたのか、ほんの少し前に飛び出しきた。「危ないな」と訝しげ、その車を見やるとぎょっとして二度見した。

パンパンに膨らんでいた数多のゴミ袋が後部座席に詰め込まれていたのである。ゴミ屋敷かと見まがうくらい、車内はゴミで満たされ、異形の様相を呈していた。助手席には誰も乗っておらず、白髪混じりのおじいさんが運転席でハンドルを握っていた。鼻先に人参をぶら下げられた馬のように鼻息荒く、前方を凝視していたのがひどく印象的だった。

彼はいったいどんな目的で、数多くのゴミ袋を持ち運んでいたのだろう。ゴミを出すことを忘れて集積所まで届けようとしたのか。いや、日曜日の朝である。そんなわけはあるまい。

うちに帰ると汗がどっと噴き出てきた。ただスーパーに行って帰ってきただけなのに。暑くてたまらない。僕はあのゴミ屋敷の車内を想像した。生ゴミの腐臭が鼻の奥にツンと届く。重くぬめぬめとした臭いが、はっきりとした比重を持って断層のようにどんよりと空中に浮遊しはじめた。その時にはっとした。

あの車、窓を開けていなかったと思う。このご時世に、しかも、ゴミだらけの車中で、なぜ窓を開けていなかったのか。思い返すと、また不思議に思えてきた。彼はなぜ、この猛暑の中、ゴミをいっぱい詰め込んで、窓も開けずに、赤信号でもアクセルを踏んで、先を急ごうとしていたのだろう。

あるいは、あの車は、朦朧とする僕の脳が見せた幻影に過ぎなかったのか。そうであるならば、もう少しマシな幻を見せて欲しかった。