銭湯は冷える日の幸せ。

厚手のダウンを着込み、冷えきった夜の世界を体を縮こませながら、いそいそと銭湯に向かった。土日の夜に行くと、決まって混雑をみせる近所の銭湯も、冷気に包まれた今日のような日なら比較的空いてるだろうと思ったのだ。それに、この冷たい空気を味わったあとで、銭湯に入るのは気持ちいいだろうなあと思ったからです。

外は朝に止んだはずの小さな雪が再び降り始めている。雪は容赦なく僕の顔に当たり、体温は奪われ、体がどんどん冷えていく。まるで冷凍庫の中に放り込まれたように。幸い、銭湯まで徒歩5分とかからないので、ぐっと堪える。こんなに寒い夜でも、外を歩いている人はわりにいるし、ランニングする人さえも見かけた。なんともまあ、強靭な意志と肉体をお持ちの方である。

雪と冷気と暗闇に包まれた夜の中、淡い橙色の照明に照らされた銭湯の暖簾を見つけると、そこはまるで桃源郷のような場所に思えて仕方がなかった。僕はたぶんこれまで百回は軽く超えるくらい銭湯に行ったと思うけど、銭湯の玄関に温もりというものをいちばん感じた瞬間だったと思う。

番台で代金を支払い、脱衣所に向かう。さっと服を脱ぎ、洗い場で頭と体を入念に洗っていざ湯船へ。ふぅ〜。気持ちがいい。室内は思ったとおりがらがらだ。こちらの銭湯は数年前にリニューアルしてデザイン性を高めたこともあり、とても人気がある。だから、銭湯のゴールデンタイムである18時〜20時くらい(土曜日の場合)に浸かりに行くと、湯船にスペースがないときがある。押し競饅頭のように人で埋まっているのだ。空きができて湯船に浸かったとしても、次から次に浴室に人が入ってくるので、すぐに出ないといけないかな、と心配になってしまい、心はぜんぜん休まらない。心と体を休めにいってるはずなのに。でも、今日は両手で数えるくらいの人数しかいなくて、ゆっくりと堪能することができた。

浴室内は湯気が立ちこもり、オレンジ色の照明がゆらゆらと輝いて、まどろみの空間をつくる。まるである種の桃源郷の幻影を思わせる光景だ。僕は湯船と水風呂と休憩を繰り返し、心ゆくまで銭湯を満喫する。おじいさんも幸せそうな顔をして湯船に浸かっている。我が家の風呂のように悠々自適に過ごしていたら、あっという間に一時間が過ぎていた。今年になっていちばん贅沢な時間だったかもしれない。

番台のお姉さんにロッカーの鍵を返して外に出る。凍えるほど寒かった外の空気も、ぽかぽかの体と相対すると、それはとても心地いい夜になっていた。寒い日だからこそ味わえた幸福がここにはありました。