観客席のあっちこっちで笑い声が沸き起こる「カメラを止めるな!」

巷で話題の低予算映画「カメラを止めるな!」を見に行く。場所はTOHOシネマズ新宿だ。こちらの映画館はオープンしてしばらくになるけど僕にとって初参戦の会場だった。いつも利用するホームグラウンドの映画館では上映されていなかったので、どうせなら足を踏み入れたことのない劇場に出かけてみようと思ったのです。

その日は、平日(月曜日)の朝だというのに、ほぼ満席で、前方と後方隅にポツポツと空いている程度だった。僕は後方左手の通路と壁に挟まれた二席のうちの一つを取った。それにしても休日でもないのに、ものすごい埋まり具合だ。封切り当初は2館だけの上映だったのが、その面白さによってあれよあれよと評判が広がり、今では190館を超えていると聞く。鑑賞した人から口々に「面白かった」という話も聞くし、拡大上映にふさわしい、素晴らしい映画なのだろう。そういう前評判を耳にしていると期待はいやでも膨らむ。

「カメラを止めるな!」が上映されるTOHOシネマズ新宿の7番スクリーンは約400席用意されたわりと大きなスクリーンで、そのうちの9割くらいは埋まっていた。もう一度言いますが、平日の朝でこの現象です。映画の人気を肌で実感した瞬間だった。この日はちょうど甲子園の準決勝が行われる日でもあり、「金足農業(吉田輝星選手)」か、「カメラを止めるな!」がその時の日本の二大話題だったような気がする。と言ったら言い過ぎでしょうか。月曜日の朝に映画館にひしめき合う異常性に尋常ではない観客の熱量をひしひしと感じたし、甲子園もこれくらいの、いやそれ以上の盛り上がりがあるのだろうと想像する。

上映時刻が迫り、壁側の席に腰を下ろす。僕の隣席はどんな人だろう。可愛い人だったらドキドキして映画に集中できないかもしれない、なんて淡い妄想をしていたが、実際に腰をかけたのは50代くらいのおじさんだった。それがまあ現実というものである。おじさんは腰を下ろすと膝と腕を組み、スクリーンに目をやった。おじさんはポップコーンやドリンクを頼んでいた。でも、まだそれらに手をつけないところをみると、おそらく上映開始後に食べるんだろう。

久々に映画館で予告を見た。なんというか映像はすごいんだけど、話の内容はどれも既視感のあるもので、ハリウッドもネタに困っているんだろうなということが伺える。その点、これから見ようとしている「カメラは止めるな!」は独自性がある(のだろう)。制作費ウン百億円のハリウッド映画と制作費300万円の本作。でも観客が払う料金は同じ1800円。映像の美しさや迫力で勝てるわけがないので、そういう映画に対してアイデアで勝負しているわけだ、この映画は。秀逸なアイデアを一本帯刀し、それのみで戦にやってきたのである。で、メジャー映画をばっさばっさと切り倒そうとしているのである。やはりそういう映画は気になってしまいます。

長い予告編が終わり、おなじみの映画泥棒の登場後、本編が始まった。隣のおじさんはポップコーンを食べ始めた。周囲に気を使ってか、音を立てずに静かに食べている。しかし、何かが匂う。コーヒーの香りだ。ゾンビのシーンを見ながら、香ばしい匂いがツーンと飛んでくる。まるで4Dのような新しい映画体験だ。おじさんはこれを狙ってコーヒーを持ち込んだのか。いや、そんなわけはない。

初めの約30分は自主制作映画さながらのチープさのある映像で淡々と進んでいく。撮影クルーがゾンビに襲われる光景が続く。この時の心境としては、もともとゾンビ映画が好きじゃないこともあって、なかなか退屈だった。何度も自分の腕時計を確認した。30分を過ぎた頃から、面白くなるという話を耳にしていたからだ。早くこの前半部分が過ぎるといいなあと思っていた。隣のおじさんは黙々とポップコーンを食べている。

場面は一転し、ここからが本編ですよ、というようなシーンが始まる。冒頭のゾンビの一連の場面は全てフリになっているのだ。手品と種明かしのセットみたいな構成で、ここからの種明かし具合がひどく笑える。コメディ映画と謳われていることも納得の出来栄えだ。会場のあっちこっちで、笑いが沸騰したようにアハハハと笑い声が生まれていく。隣のおじさんもゲラゲラと笑っている。笑うと息からコーヒーの香りが飛んでくる。なかなか刺激的な匂いだ。もう冒頭のゾンビの張り詰めたシーンではないんだが。

映画館でこんなにも吹き出してる人がいる光景はあまり記憶にない。いろんなところで言われているように(おもしろい)三谷映画みたいな笑いの量だ。気がつけば僕もアハハハと口に出して笑っていた。悶絶する面白さはないけど、笑いの渦が多くて、何度もお笑いヒットを食らった感じだ。エンドロールが流れたとき、わりと笑顔になって迎えられる満足度の高い映画だった。

映画に対して好感を抱いたこともあり、ふだん買うことはないパンフレットを帰り際に買って帰りました。映画にはいろんなジャンルがありますが、人を笑顔にする映画ってけっこう好きです。

f:id:amayadorido:20180825220256j:plain