サウナで「ととのう」という絶頂。

極端な言い方をするなら、「サウナの扉は快感への入り口だったんだな」と実感する。サウナのうだる熱さと水風呂の冷凍庫のような冷たさをくぐり抜けた先に、この宇宙と一つになるようなおかしな快感がある。尋常ではない「よがり」のようなものがある。深いリラックスや心地よい浮遊感がある。そういう恍惚感をサウナ用語で「ととのう」というらしい。人によっては「トランス状態」、あるいは「エクスタシー」など様々な表現で「ととのう」状態を伝えようとしている。

サウナ好きの人から初めて「ととのう」という言葉を耳にしたときは半信半疑で聞いていた。ほんとにそんな感覚が起こり得るんだろうか?   オカルトの一種ではないだろか?    これを読んでいるあなたと同じ感覚だと思う。でも、実際に自分の身をもって体験してしまうと、温泉(あるいは銭湯)の本丸は湯船ではなく、サウナ(と水風呂)かもしれない、と考えを改めてしまっている自分がいる。これまでの温泉と銭湯の概念を変える体験がサウナにあった。 

「ととのう」というある種の境地に達するためには、それなりのお作法というものがある。人によって入り方は微妙に異なるが、大まかに言えば次のような順番である。

1)サウナに入る(約10分)

2)水風呂に入る(約2分)

3)休憩(約5分)

1~3を3セット行う。
10分サウナに入ることにまず驚かれるだろう。僕もそんな長い時間サウナに浸かったことはなく、耐えることができるのだろうかと初めは不安に思った。でも10分入るんだ、と腹をくくって入ると意外といける。泳げないと思っていたけど、思い切って水の中に飛び込んだら、意外にも泳げたというか。どうしても耐えられなくなったら、頭にタオルをかぶせるとよい。熱さは緩和され、息がしやすくなる。それから「10分」という時間はあくまで目安で、体の調子と相談しながら時間は決めていいとのこと。そこは臨機応変に対応していただければと思います。

そのあと水風呂に全身浸かる。これも、辛いと感じる人が多いと思う。でも、サウナのときと同じで覚悟を決めて入ると意外と浸かれる。初めは冷たくても、だんだん気持ちよくなってくる。「水風呂こそ、ご馳走だ」と叫ぶ人もいるのですが、その気持ちもなんとなくわかってくる。温泉に浸かっているときよりも、(肌感覚で言えば)快感指数が大きいのだ。冷たさはなくなり、まるで炎天下の中、プールに浮いているような気持ちよさが生じる。だんだん感覚は麻痺してきて、いつまでも水風呂の中に入っていたくなるのだが、そこは意識を正常に戻して、なんとか水風呂の快感から脱出しましょう(そうしないと体調を崩してしまう)。

そして、小休憩。約5分間ほど、浴室に置かれている椅子や、もしくは露天があれば、外気にあたりながら休憩する。5ラウンドを終えたボクサーのように背を丸めて椅子に座る。そしてまたサウナへ。これを後2セット繰り返すのだ。そうすると、その先に、「ととのう」瞬間が来る。

ただ、「ととのう」瞬間は3セット目の先とは限らないようで、僕が初めて「ととのう」に挑戦したときは、1セット目の休憩の時にやってきた。長椅子にもたれながら座っていると、指の先がとろけ出し、腕がふにゃふにゃの感覚になり、やがて全身が椅子と一体になるような感覚に襲われ、味わったことのない快感がやってきた。ああ、これが「ととのう」というものか、と感激してしまった。温泉に浸かっているときよりもはるかに気持ちがいい。こんな体験がサウナと水風呂を通過した先にあったのか、と驚いてしまった。

僕が初めてととのったのは田園都市線宮前平駅の近くにある「湯けむりの庄」。スーパー銭湯として名高いこちらの温泉も、サウナとしてはそこまで称えられてる場所ではないが、僕はこの銭湯でととのう体験をしてしまった。街なかの銭湯についているサウナと違って、サウナ室のスペースは広いし、水風呂も広い。広々とした露天には長椅子が3席あり、外気にあたりながらゆっくりと休憩できる。 

サウナと水風呂に浸かった後、外の椅子に腰をかけ、心地のいい風が肌に触れ、目をつむっていると、その瞬間がやってきた。初めてととのった瞬間だった。

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